

近年、第一選択薬として使用される抗HIV薬は、いくつかの組み合わせに集約される傾向にあるものの、抗HIV療法と日和見感染症治療を同時に施行する場合や、サルベージ治療に用いられる抗HIV薬の組み合わせは多様である。抗HIV薬の中でもNNRTIとPIはその薬物動態が相反しており、相互作用の強さは薬剤の組み合わせだけでなく、個人間によってもその動態が大きく変動する可能性がある。血中濃度測定の第一番目の意義は、治療効果の確認である。服薬アドヒアランスが十分であるにも関わらずHIV-RNA量の再上昇があった場合、服薬開始後にHIV-RNA量の十分な低下や低下速度に問題がある場合等があげられる。副作用等の有害事象が出現した場合もTDMの対象となる。
抗HIV療法では多剤併用療法が行われることに加え、他の薬剤を併用する機会も数多く見られることから、治療効果はもちろんのこと、安全性の面からも、個々の薬物動態を十分に把握し、相互作用を理解しておくことが重要である。治療の失敗が許されないARTの特性を考えあわせると、治療は慎重に行われるべきであり、治療をより確実なものとするためにも、血中濃度測定を治療の選択肢として考慮すべき場合がある。
NRTIの治療効果は活性型の細胞内濃度と相関する事が明らかであるが、治療効果と血中濃度との関連については、未だ明らかではない。NRTIは細胞内に入ってリン酸化された後に効果を発揮する一種のプロドラッグである。細胞側のリン酸化酵素によって三リン酸化体に変換され抗ウイルス効果を示すため、細胞内リン酸化酵素活性によってその効果が左右されることになる。治療効果を考えたとき細胞内における三リン酸化体の細胞内濃度が問題となるため、血中濃度をコントロールし臨床的に応用する試みは行われていない。
EFVは服用後数時間が血中濃度も高く、ふらつきなどの精神神経系副作用が高頻度に発現するため眠前に投与することが推奨されている。薬剤の有効性を予測するためには、薬剤の投与前血中濃度(トラフ値)での評価が有用であるが、EFVの場合、特に外来患者における服用前すなわち眠前の採血は困難である。EFVの血中濃度を評価する場合は、投与12時間前後で採血を行うことが推奨されている。DHHSガイドラインでは、EFV投与14時間後の推奨有効血中濃度を1,000ng/ml(3,170nM)以上としている(表1)。EFV血中濃度と精神神経系副作用との関係については、4,000ng/ml(12,700nM)を超えると精神神経系副作用の発現頻度が有意に上昇することが報告されているが[1]、必ずしも相関しないとする報告もあり[2]、その評価は分かれている。
EFVの血中濃度はCYP2B6の遺伝子多型と関係することが示されており、 *6*6 の多型を持つ患者の血中濃度はNon-*6,*6 heterozygoteと比較して2~3倍高値であったことも報告されている[3]。厚生労働科学研究研究班「抗HIV薬の血中濃度測定に関する臨床研究(http://www.psaj.com/)」を経由し、CYP2B6の遺伝子多型検査を依頼することができる。
DHHSガイドラインではETRの血中濃度は目標トラフ濃度ではなく、過去の臨床試験で測定されたトラフ濃度の中央値とその範囲が、275(81 - 2,980) ng/mLと示されている(表2)。
| 薬剤名 | 濃度(ng/mL) |
|---|---|
| APV(FPV) | 400 |
| IDV | 100(130nM) |
| LPV | 1,000 |
| NFV | 800 |
| RTV | 2,100 |
| SQV | 100-250 |
| ATV | 150 |
| EFV | 1,000(3,170nM) |
| NVP | 3,400 |
| MVC | > 50 |
| 薬剤名 | 濃度(ng/mL) |
|---|---|
| DRV(1200mg/分2) | 3,300(1,255-7,368) |
| ETR | 275(81-2,980) |
| RAL | 72(29-118) |
現在の抗HIV療法では、RTVのP450に対する強力な阻害作用を積極的に利用し、併用するPIの血中濃度を高め、しかも長く持続させるためのブースターとして、少量のRTV(100 mg程度)を併用する方法が用いられている。RTVと併用するPIの治療効果を高め、血中濃度を長く維持できるので、投与量や服用回数を減らすことが可能となる。
あらかじめRTVが配合されている薬剤に、カレトラ®(LPV/r)がある。PIの血中濃度と薬剤耐性との間には、IQ(Inhibitory Quotient = Ctrough / IC50)値が血中濃度と抗ウイルス効果に影響するとされ、IQ値が大きいほど抗ウイルス効果は強く、長期に渡って効果が持続するとされている。しかし、血中濃度が高いと副作用の問題も発生するため、すべてのPIの血中濃度を高く保つことは不可能である。LPVはRTVを併用することによって血中濃度を比較的高く保っても副作用が発現しにくいとされ、IQ値を一定のレベル以上で保つことが出来る薬剤である。ATVは胃内酸度により溶出が大きく変化する。血中濃度には個人差があることも報告されている[4]ことから、ATVは血中濃度モニタリングを行いながら、慎重に治療を進める必要がある薬剤である。強力に胃酸分泌を抑えるプロトンポンプインヒビターとの併用は禁忌である。2011年3月現在、日本の添付文書に記載はないが、米国の添付文書では初回治療の患者でATV300mg + RTV100mg投与の場合、オメプラゾール20mgの投与による影響は少ないことが記載されている。2008年1月29日改訂以後のDHHSガイドラインでは、初回治療の患者の場合、ATV300mg + RTV100mg服用の12時間以上前であれば、オメプラゾール20mg以下の投与は可能とされている。オメプラゾールはCYP2C19で代謝を受ける。日本人には約20%の割合でCYP2C19のpoor metabolizerが存在し、poor metabolizer群では有意に制酸効果が高いことや[5]、H. pyloriの除菌率が有意に高いことが報告されている[6]。米国ガイドラインでは条件付ながらオメプラゾール20mgの併用に問題ないとされているが、日本人では併用を避けることが望ましいと思われる。
DHHSガイドラインではDRVの血中濃度は目標トラフ濃度ではなく、過去の臨床試験で測定されたトラフ濃度の中央値とその範囲が、3,300(1,255-7,368) ng/mLと示されている(表2)。
RALの臨床試験(フェーズⅡ、Ⅲ)において、RALの血中濃度が治療効果に及ぼす影響は少なかったとされているが[7]、in vitroにおいて濃度相関を示したとする報告[8]もあることから、今後の研究結果が待たれる。DHHSガイドラインではRALの血中濃度は目標トラフ濃度ではなく、過去の臨床試験で測定されたトラフ濃度の中央値とその範囲が、72(29-118)ng/mLと示されている(表2)。
MVCの血中濃度測定に関する臨床試験は限定的であるが、DHHSガイドラインでは、薬剤耐性を持つ既治療患者に対する推奨として、MVCの推奨トラフ濃度を>50ng/mLとしている。
MVCをCYP3A阻害剤又はCYP3A誘導剤と併用する場合は、用量調整が必要とされている。例えばPI、イトラコナゾール、クラリスロマイシン等の強力なCYP3A阻害剤と併用する場合、MVCの用量は150mgを1日2回。NVPやNRTIと併用する場合MVCの用量は300mgを1日2回。EFV、ETR、RFP等の強力なCYP3A誘導剤と併用する場合MVCの用量は600mgを1日2回投与することとされている。MVCは併用薬の影響を大きく受ける薬剤であり、日本人での薬物動態は不明である。厚生労働科学研究研究班で血中濃度測定が可能となったことから、本剤を投与する場合は血中濃度をモニタリングすることが望ましい。
2011.9.28 掲載